サウナエッセイ 「黙浴」

コロナ禍でサウナにハマった人の多くにとって、「黙浴」「黙サウナ」がスタンダードルールである

お風呂という無防備で距離を取りにくい空間では、このようなルールが明示されていることが心強い

未曽有の世界的混乱で先の見えない中
温浴施設が工夫を凝らして営業してくれていたことで

私たちのセロトニン分泌は安定して供給され
日々幸せに過ごすことができた

利用させていただく以上はマナーを守るという形で施設に迷惑が掛からないように配慮したいところだ

ただ、銭湯にいくと常連のおばあちゃんたちは「黙浴」と書いた張り紙の前で
そんなのどこ吹く風と楽しそうにおしゃべりをしている

正直、ちょっと嫌な気持ちになってしまっていたのだけど
ある日の出来事をきっかけに、気にならなくなった

湯上りに脱衣所で身支度しているとき
常連と思しきおばあちゃんの一人が言った

「わたし、ここに来ないと誰とも話さないから」

胸が、ぎゅっと音を立てた気がした

一人で暮らすおばあちゃんにとって、銭湯や温浴施設はただ湯舟に浸かりに来ているだけじゃなくて

お風呂にきて、知った顔の人同士で挨拶をすることが彼女たちの「日常」の一つなのだ

その日常にちょっと足を踏み入れた私が
黙浴こそが正義だと思い込んでしまった私が
なにを気取って文句を言えようか

何が正解かわからないけど
おばあちゃんたちと温浴施設がどちらも元気であってほしいし

気になるなら自衛できる範囲のことをしようとおもった

それからは都度コンテックスのマスクを着けて心穏やかに過ごす毎日だけど

とある銭湯で常連さんが聞えよがしにこう言った

「そんなに気になるなら来なきゃいいのにねぇ」

OK,Google、姥捨て山へのアクセスを教えて?

感染対策をしていて文句を言われる筋合いはないし

無症状で感染していた際に高齢者に染さないための配慮でもあるのに

私がマスクをつけていて何か不都合なのだろうか

いじわる婆さんめ
あんたみたいなのがいるから、銭湯のハードルが上がるのだ

カチカチ山のたぬきに鍋にされて喰われてしまえ(原作の婆さんは善人)

こんこんと湧き出る放送禁止ワードをぐっと飲みこみ、聴こえないふりをしてやりすごしたけど

また同じようなことがあったら毅然とした態度で反論しよう

そんな決意を胸に
今日も私はお気に入りのマスクをつけてサウナを楽しむ

大好きな銭湯や温浴施設が
一生懸命営業してくれていることに対して
足を運び、マナーを守ることで感謝を伝えていきたいから

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